コラム

毎年の薬価改定に対応するには? 医療機関における医薬品調達のよくある悩み

公開日:2025/12/26

毎年の薬価改定に対応するには? 医療機関における医薬品調達のよくある悩み

少子高齢化が進む日本において、社会保障費の増大は国全体の大きな課題となっています。政府は財政健全化の一環として、医療費の適正化を強力に推し進めており、その影響は医療機関の経営にも色濃く反映されています。物価高騰による光熱費・資材費の上昇など、病院経営を取り巻く環境は年々厳しさを増しており、多くの医療機関にとって「コスト削減」や「経営の効率化」は喫緊の課題です。

病院経営におけるコスト構造で最も大きな割合を占めるのは人件費ですが、その次に大きなウエイトを占めるのが、医薬品や医療材料などの材料費です。人件費の削減は医療の質やスタッフのモチベーション低下に直結するデリケートな問題である一方、医薬品や医療材料の調達コストは見直しを行うことで経営改善に多大に寄与する可能性があります。

本記事では、近年の薬価制度の変更点を踏まえつつ、医療機関における医薬品調達の現場が抱える具体的な課題と、その解決策として注目される「GPO(医薬品共同購買)」という選択肢について解説します。

毎年実施されるようになった「薬価改定」

医療機関の経営戦略を考える上で避けて通れないのが、国の定める薬価制度の動向です。日本は国民皆保険制度のもと、医療用医薬品の価格(薬価)を製薬会社が自由に決めるのではなく、国が定めて薬価基準に収載する「公定価格制度」を採用しています。医療機関は卸売業者から医薬品を購入し、患者さんに処方・投薬した際には、公定価格である薬価に基づいて診療報酬を請求します。

薬価は一度決まれば固定されるものではなく、定期的に見直し(薬価改定)が行われるものです。
従来、薬価改定は診療報酬本体の改定に合わせて「2年に1度」の頻度で実施されていました。しかし、医療技術の進歩による高額医薬品の登場や高齢化による薬剤費の増加を背景に、国民負担の軽減と医療保険財政の維持を目的として、政府は薬価制度の抜本的な改革を実施。

その結果、2021年度以降は、実際の市場での取引価格(市場実勢価格)と公定価格(薬価)の乖離を埋めるため、「毎年」薬価改定が行われています。

具体的には、2年に1度の診療報酬改定時には全品目を対象とした通常改定を行い、その間の年には、市場実勢価格と薬価の乖離が大きい品目のみ価格を見直す「中間年改定」が行われます。この毎年の改定という変化は、医療機関に大きなインパクトをもたらしました。

以前であれば、改定のない年は薬価が維持されるため経営計画が立てやすく、購入価格を抑えることで一定の利益(薬価差益)が確保できる期間がありました。しかし、毎年のように薬価が引き下げられる現在の状況下では、常に購入価格の見直しを迫られることになり、価格交渉のサイクルが短期化しています。
これにより、現場の負担は増し、従来のやり方では収益を維持することが極めて困難な時代に突入しているのです。

医療機関における医薬品調達の悩み

毎年の薬価改定に加え、物流コストの上昇や働き方改革など、外部環境の変化も相まって、医療機関の医薬品調達業務はさまざまな課題に直面しています。特に、現場の実務を担う薬剤部などの担当者が抱える悩みは複雑化しているのが実情です。ここでは、多くの医療機関で共通して見られる主な課題について掘り下げていきます。

1.薬価差益を確保しにくい

これまで、病院経営において医薬品の「薬価差益」は重要な収益源の一つといわれていました。薬価差益とは、国が定める公定価格(薬価)と医療機関が医薬品卸業者から実際に仕入れる価格(納入価格)との差額によって生じる利益のことです。医療機関は、卸業者と価格交渉を行いできるだけ安く医薬品を購入することで、公定価格との差額を利益として病院運営費に充ててきました。

しかし、近年はこのビジネスモデルが崩壊しつつあります。最大の要因は、前述した「毎年の薬価改定」による薬価の引き下げです。国は医療費抑制のため、市場実勢価格が下がれば合わせて薬価も引き下げます。薬価自体が下がってしまえば、当然ながら得られる収益の上限も低くなってしまう構造です。
以前であれば、薬価が下がった分、卸業者に対してさらなる値下げを要求することで薬価差益を維持できましたが、近年は卸業者側も厳しい経営環境に置かれています。原油高による配送費の高騰や原材料費の値上げ、人件費の上昇などが重なり、すでに卸業者の利益率も限界まで圧縮されているため、医療機関からの値下げ要求に応じきれないケースが増えているのが実情です。

その結果、近年は仕入価格が薬価を上回ってしまう「逆ザヤ」と呼ばれる事態も頻発しています。
特に、後発医薬品(ジェネリック医薬品)は、安定供給の問題も絡み、価格競争よりも供給確保が優先される傾向が強いため、逆ザヤの割合が高いとされています。
「交渉しても価格が下がらない」という状況に加えて、「下がっても薬価改定で相殺される」という悪循環が繰り返され、多くの医療機関で薬価差益の確保が困難なのが実情です。

2.価格交渉に労力がかかる

「薬価差益が縮小しているなら、もっと粘り強く価格交渉を行えば良いのではないか」と考える経営者がいるかもしれません。しかし、医療機関の現場において、価格交渉に十分なリソースを割くことは物理的にも精神的にも非常に困難ではないでしょうか。
医療機関の本来の業務は、患者さんの診察や治療、調剤といった医療サービスの提供です。薬剤師や事務職員も日々の業務に追われている中で、数千品目にも及ぶ採用医薬品について、複数の卸業者と面談して見積もりを取り、価格交渉を行う時間を確保するのは困難といえます。

特に、中小規模の病院や専任の部署を持たない病院では、薬剤部長や事務長が兼務で交渉を行うケースも少なくありません。多忙な業務の合間を縫って行われる交渉では、市場価格の動向や他院のベンチマークといった情報を十分に集められず、卸業者の提示価格が適正かどうかの判断も難しいまま妥結せざるを得ないこともあります。
また、卸業者側のコスト高騰もあって、期待したほどの成果が得られないケースも増えており、「労力をかけても報われない」という徒労感が現場の担当者を疲弊させています。

3.人手不足による業務負担の増加

医薬品調達の課題をさらに深刻化させているのが、医療現場における慢性的な人手不足です。特に、薬剤師の不足は、多くの医療機関にとって頭の痛い問題です。

2006年以降は薬学部の増設が続き、多くの薬剤師が誕生しているにもかかわらず、厚生労働省のデータでも薬剤師の過去5年間の有効求人倍率は、全職種の平均を大きく上回る2倍前後で推移しています。
理由の一因は、調剤薬局やドラッグストアなど活躍の場が多様化することで、病院勤務を希望する人材の獲得競争が激化しているためです。
病院における薬剤師の業務は、調剤や服薬指導だけでなく、入院患者さんの持参薬確認、病棟での薬剤管理指導、チーム医療への参画など年々拡大しています。本来であれば、医薬品の購入管理や在庫管理も重要な職能の一つですが、人手不足の現場では目の前の患者さんへの対応が最優先されるのが現実です。
その結果、在庫管理や発注業務、価格交渉といったモノの管理業務がおろそかになりがちです。

また、限られた人数で全ての業務を回そうとすることで一人当たりの負担が増加し、結果として離職を招くという負のスパイラルに陥るリスクもあります。「適正な管理を行いたいが人がいない」「価格交渉に時間をかけたいが日常業務で手一杯」というのが、多くの薬剤部が抱える本音ではないでしょうか。

4.デッドストックによる利益の圧迫

薬価差益の縮小と並んで、病院経営の利益を圧迫する大きな要因となっているのがデッドストック(不動在庫)の問題です。デッドストックとは、仕入れたものの使用される見込みがなくなり、長期間保管されたままになっている、あるいは廃棄せざるを得なくなった在庫を指します。
どんなに安く医薬品を仕入れても、その医薬品が使われずに廃棄されれば、仕入れにかかったコストは全て損失となります。デッドストックが発生した時点で、苦労して積み上げた利益が吹き飛んでしまうのです。

デッドストックが発生する要因はさまざまですが、代表的なものとして以下の3点が挙げられます。

包装単位と処方日数の不一致

医薬品は箱や瓶などの包装単位で発注・納品されますが、臨床現場で必要な量は患者さんの病状によって異なります。例えば、箱単位で購入する高額な注射薬で、患者さんに必要なのがその一部だけの場合、残りの注射薬は使用機会がなければ期限切れとなり廃棄されるリスクが高まるのです。

使用期限の存在

全ての医薬品には厳格な使用期限があります。期限を1日でも過ぎた医薬品は使用できません。期限がきた医薬品は未開封であっても廃棄処分となります。特に高額薬剤は、一つ廃棄するだけで数万円から数十万円の損失になることもあり、ダメージは深刻です。

需要予測が困難

医療現場では、いつどのような患者さんが来るか予測することは困難です。特に、特定の疾患に使用する高額な特殊薬剤などは、使用する患者さんが限られます。「また使うかもしれない」と在庫を持っていても、次の患者さんが現れる前に期限が来てしまうこともあれば、逆に在庫を持たずにいると急患に対応できないというジレンマもあります。

このように、医薬品の在庫管理はコスト削減と医療安全の両面から非常に重要かつ高度な業務ですが、人手不足や業務多忙により、十分な管理が行き届いていないのが現状です。

医療機関のコスト最適化に向けた鍵は“共同購買”

「薬価差益の縮小」「価格交渉の負担」「人手不足」「在庫管理の難しさ」といった課題は、個々の病院の自助努力だけで解決するには限界があります。特に、スケールメリットが働きにくい中小規模の病院や、専任の部署を持たない医療機関において、その壁は一層高く感じられるでしょう。

そのような状況を打開する有効な手段として注目されているのが、「GPO(Group Purchasing Organization=医薬品共同購買)」という仕組みです。

「個」ではなく「スケールメリット」で交渉するGPOの仕組み

GPOとは、複数の医療機関が連携し、医薬品や医療材料の購入量をまとめることで交渉力を高め、より有利な価格や条件で調達を行う組織や仕組みのことを指します。

通常、医薬品の価格交渉において、購入量が多ければ多いほど買い手側の発言力は強まり、価格引き下げの余地が生まれます。しかし、単独の病院では購入量に限りがあります。そこでGPOを活用し、他の病院や調剤薬局グループと共同購買を行うことで、大病院クラス、あるいはそれ以上の購買力を背景とした価格交渉が可能になるのです。
さらに、現場を疲弊させている「価格交渉」の業務はGPO運営会社が一括して行うため、これまで交渉に費やしていた膨大な時間と労力を削減でき、薬剤師は本来の職能である医療に専念できるようになります。

GPOには購買データの分析や管理サポートが含まれることが一般的で、自院の購入実績データに基づいた適正な在庫量の提案や、同種同効薬の絞り込みといったコンサルティングも受けられます。
勘や経験に頼っていた発注業務から脱却し、データに基づいた医薬品購入計画を立案できるようになるのもメリットです。

GPOは医療の質と経営を守るための戦略的選択肢

医療機関にとって、コスト最適化は避けて通れない課題です。しかし、そのために必要な医療の質を落としたり、人員を削ったりしては本末転倒となってしまいます。GPOの活用は、スケールメリットを活用して調達コストを適正化し、浮いた原資を医療の質の向上や人材確保に再投資するための合理的な経営戦略の一つといえます。

医薬品共同購買(GPO)

全国展開する調剤薬局のスケールメリットを活かした価格交渉により、医薬品調達コストを適正化。

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